JACSES
English Page
 
プログラム
・開発と援助
・税制と財政
・気候変動
・地球サミット
・NGO強化
・フロン
・グローバリゼーション
・環境容量
・水の民営化
 
団体概要
・団体のビジョン
・理事とスタッフ
・会員募集
・インターン募集
・事務所へのアクセス
 
出版物
 
リンク
・開発と援助
・税制と財政
 
HOME

水の商品化・民営化
スリランカにおける民営化の前段階としての水の受給資格の確立

ヘマンサ・ウィサナゲ
環境財団

水の政治的役割
 スリランカでは、都市部においても農村部においても、水サービスは重要な政治的役割を担っている。そのため、水について管轄する政府機関が数多く創設されている。プラデシヤサバ(Pradeshiya Saba)と呼ばれる地域組織や、地方および都市の議会が、各家庭や商業・工業部門に有料で水を供給している。水料金を払えない人々には、地域水栓によって水が供給されている。

スリランカの水政策
 アジア開発銀行(ADB)の支援を受けて策定されたスリランカの自治体の水政策には、国の水需要を満たす能力があるのは民間セクターだけであり、水は経済財であると記されている。このことは、スリランカでも、水部門への民間セクターの参入に向けて大きく舵が取られたことを意味している。この水政策は、公共上下水道サービスを民間セクターに委ねることを容認したのである(囲み1参照)。

民営化の影響
 民営化とは、長期的な持続可能性よりも、希少性の原則と利潤の最大化に基づいて水資源を管理することを意味している。民営化によって高い環境基準はもたらされず、むしろ、消費者に料金の上昇がもたらされている。スリランカで活躍しているIWMI(国際水道管理機構)によると、水の有料化と民営化がもたらす良い影響とは、人々が水を無駄にしないで賢く使うようになることだという。

 水が民営化されれば、女性や子供の水に対するアクセスや購買力は低下する。世界では毎年、500万人以上の人々(しかもその大半は子供)が、不衛生な水に起因する病気によって死亡している。家事労働のほとんどを担っている女性や子供は、民営化後、水を得るためにさらに重労働を強いられるようになり、しばしば汚染された小川や河川から取水しなければならなくなるだろう。

 民営化は、水管理に関する決定に市民や政府が民主的に関与していくことを難しくする。結果として、企業の情報に対する人々のアクセスは制限される。水道サービスというものは、一つの企業だけが契約を与えられた地域で唯一の管理主体になれるという性質を持っている。民間企業による独占が一旦確立されてしまえば、それを撤回させるのは極めて難しい。

水の権利の確立:その影響は?
 現在のところ、すべての水源は公共のものである。しかし、土地の所有者は、そこで地下水をくみ上げることができる。現在提案されている水の権利が確立されることで、大量に水を利用する者に対して譲渡することが可能な水の権利が発生する。これにより、大量に水を利用している者が、外部の者に水の権利を売り渡すことも可能になる。水の権利を持たない者は、このような権利の売買に反対することはできず、しかし被害だけは受けることになる。

 スリランカの水政策は、水の権利の割り当て、すなわち権利付与を最も重要な課題としている。しかし、この資格が誰に与えられ、誰に与えられるべきでないかは明確にしていない。スリランカの水産業には多数の多国籍企業が参入している。新しい水政策は、スリランカの人々が水の権利を手に入れることで水を所有すると規定しているが、水セクターに進出してきている外国企業の扱いについては何も記していない。譲渡可能な水の権利が確立されることで、民間の水企業によるスリランカの水資源に対する支配が進む可能性がある。この政策が水に料金を課すための制度であることは疑いの余地はない。

 この政策によれば、水の権利を獲得するには、まず契約金を支払わなければならない。そして以後も、定期的に権利の更新料を支払わなければならない。さもなければ、水の権利は自動的に取り消されることになる。このことは農民に多大な影響を与える。なぜなら、彼らの収入は不測の原因によって不確定なものだからである。もし水の権利を更新できなければ、次の作付け時に水を得ることができなくなる。このような状況下で、食糧安全保障が確保されるのであろうか? 水の料金が値上がりすれば、貧しい者はより一層水を手に入れることが困難になり、彼らは人間が飲むのに適さない水を飲むことを余儀なくされる。

結論
 多国間開発銀行が水セクターに介入することで、地域の水の権利が著しく侵害されている。民間の水企業が地域の水資源に対する支配を確立する事態が引き起こされかねない。譲渡可能な水の権利が確立されることによって、民間セクターに水の所有権が譲り渡されることになるであろう。水の割り当て及び分配については民主的に決定されるべきであり、全ての人に清潔で安全な水を得る基本的権利が保障されなければならない。水資源の管理にあたって主眼とされるべきは、利潤の最大化ではなく、長期的な持続可能性である。人、動物、植物が生きていくために水を得る権利は、いかなる政策によっても侵害されることがあってはならない。

囲み1:2002年7月の政策案の問題点(*1)
 最初の水政策は2000年3月に閣議決定された(*1)。この政策は、水の所有権は政府にあると定め、人々は水源からであっても、水を得るためには水の権利を獲得しなければならないとした。

 2001年11月、この政策に対する人々の数ヶ月に渡る抗議行動が開始され、その結果、政策は変更を余儀なくされた。環境財団は、人々にこの政策について知らせる活動を行い、この不公正な政策に抗議する行動の組織化を支援した。抗議を行った人々の大半が農民であった。このような活動が実を結び、水資源事務局は2002年7月25日、新しい政策を発表した。

水質汚染:
 私たちが本当に水を保全したいのであれば、産業活動による大規模な水質汚染を規制するための積極的な政策が必要である。産業界が安い料金で水を利用し、河川や水田などにつながっている水路に未処理の排水を流して、大規模な汚染を引き起こしていることは周知の通りである。このような水の悪用をやめさせる厳格な政策が策定、実施されるべきである。そのための法規制はすでに存在するものの、実際には機能していない。

伝統的な貯水池システム:
 水の主権を確立することは、経済的な独立の重要な要件である。スリランカには、昔から水に対する国家主権を確立するためのさまざまな伝統的技術があった。この水政策は、古くからスリランカに存在している貯水池システムについて全く言及していない。このシステムは通年灌漑用水を供給してきた。長い間スリランカは自給できていたし、貯水池システムは雨水を集めるには最適な方法であった。スリランカの水資源に多大な影響を与えることが確認されている水源地域は、都市化による破壊から保護され、保全されるべきである。

生命のための水:
 水問題は、人間のニーズという狭い視点を超えて捉えられねばならない課題である。水管理には環境保全の視点が必要とされている。つまり、水質汚染や、必要とされる水量の確保、水に対する主権の確立、不正な取水の防止などが検討されねばならない。さらに、水は生態系とすべての生命体にとっての基礎的なニーズである。だから人間が水を完全に所有することはできないのである。


 

(*1)Neththipola, Rathnawalee"Srilankan Water Policy: Pricing, Privatizing and Entitlements"から抜粋

 

| BACK |

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
 〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-3-2 三信ビル401(事務所へのアクセス
 Phone: 03-3556-7323 Fax: 03-3556-7328 Email:

 

Copyright JACSES All Rights Reserved.

 

home