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水の商品化・民営化
ヨーロッパの水企業による世界支配が水問題を解決するのか?

オリビエ・フーデマン
コーポレート・ヨーロッパ・オブザバトリー(CEO)

 民営化の嵐が吹き荒れた10年間を経て、現在、世界では4億6千万の人々が企業から水道水の供給を受けている。(1990年にその数は5100万人に過ぎなかった)(*1)。水業界のアナリストは、民営化の流れは加速されるとして、2015年にその人口は11億6千万人に達すると予測している(*2)。1990年代、新たに民営化された途上国の水市場を支配することに専心してきた水企業は今、ヨーロッパやアメリカ、そしておそらく日本といった、予測可能で収益性の高い消費地にターゲットを絞りつつある。先進工業国において、民営化や「官民の連携」の事例はまだ例外的である。しかしアナリストらは、2015年には、ヨーロッパの75%、アメリカの65%の水事業が民営化されると推定している(*3)。

 もし、この民営化のトレンドが続けば、世界の水市場は10年後、ヨーロッパに本社を置く少数の巨大水企業の圧倒的な支配下に置かれることになるだろう。フランスに本拠を置く世界最大の水企業二社、スエズ社とヴィヴェンディ社は、すでに世界市場の70%を支配している(*4)。フランス本国で85%の市場を占有する二社は、その国内の強固かつ保護された立場を基盤に、90年代を通じて海外事業の拡大に成功してきた(*5)。スエズやヴィヴェンディにとって唯一驚異となりうるのは、ドイツに本拠を置き、英テムズウォーター社やアメリカンウォーターワークス社の買収を通じて近年拡大してきたRWE社だけである。

 米エンロン社の倒産によって同社の大規模な水部門であったアズリックス社も消滅した今、世界の水市場で最大手三社に次ぐ規模を持つのはすべてヨーロッパ企業となった。フランスに本拠を置くSAUR社と、イギリスに本拠を置くインターナショナルウォーター社、セバーントレント社の三社は、最大手三社に追いつこうとしているが、ビッグスリーの市場支配が強化される可能性の方が高い。

EUによる助け船
 ヨーロッパの巨大水企業の海外市場における急速な拡大の裏には、ヨーロッパ各国政府やEC委員会、およびいくつかの国際機関による広範囲におよぶ支援体制がある。ヨーロッパ各国政府が大きな決定権を握る世界銀行は、水供給事業に対するローンと構造調整ローンに民営化を条件づけることによって、途上国における水の民営化を強力に押し進めた。世界銀行は、傘下の国際金融公社(IFC)を通じて、ブエノスアイレスやマニラを始め、世界中の多くの都市で、民営化のプロセスを促進、具体化することに直接携わっている(*6)。EU傘下のヨーロッパ投資銀行(EIB)も同様の役割を演じているが、これはあまり知られていない。

 ヨーロッパ各国の政府、特にフランスとイギリスは、自国の水企業に新しい市場を獲得させようと躍起になっている。例えば仏政府は90年代半ば、ブエノスアイレスの水事業が民営化された際、スエズ社に落札させるために積極的に動いた*7。EUの水に関連した途上国向け開発援助支出は、実質的にEU各国に本拠を置く水企業に対する補助金となっている。これらの援助資金は、水のインフラ整備の支援ではなく、むしろ「行政面での再編」や民営化導入に伴う支出などに優先的に振り向けられている(*8)。EUの民営化推進路線は、昨年8月にヨハネスブルクサミット(WSSD)でEUが発表した「水イニシアティブ」にも貫かれている。官民の連携(PPP)を促進するための補助金を通じて水企業の果たす役割を拡大することは'Win-Win'アプローチであると言われているが、実際のところ、真の勝者となるのは、スエズやヴィヴェンディ、テムズウォーターなど、ヨーロッパに本社を置くグローバル水企業のみである(*9)。

 EUはまた、EU各国の巨大水企業のさらなる市場拡大を後押しするために、世界貿易機関(WTO)におけるサービス部門の自由化(GATS)に関する交渉も利用している(*10)。WTO交渉におけるEUの方針を決めているEC委員会は、2002年6月に提出した自由化要求リスト(イニシャル・リクエスト)を作成する際に、ヴィヴェンディやスエズなどのグローバル水企業と緊密に連携していた。GATS交渉によって水市場が自由化されることは、ヨーロッパに本拠を置くグローバル水企業の拡大を助長するだけでなく、水の供給をWTOの対象分野に含めることによって民営化を不可逆的なものとしてしまう効果を持っている。

破られた約束
 民営化が、途上国の都市において清潔な水へのアクセスを改善する万能薬として歓迎された10年間を経て、グローバル水企業が最貧困層の置かれている状況をしばしば改善できていないことが明らかになった。グローバル水企業は、契約を勝ち取るために、新たなインフラへの大規模投資や料金引き下げ、サービスの向上など、守るつもりのない約束を並べるのが常である。しかし一旦その企業がその都市の水事業を掌握すると、料金引き上げや約束の投資の規模縮小に対する承認を求めて再交渉を要求することも多い(*11)。グローバル水企業には、貧困地域に対してはわずかの投資しか行わずに、市場価格を払うことのできる消費者に水供給を集中させるという、いわゆる「クリームスキミング(クリームの浮いたおいしい表面だけをすくい取る)」と言われるような嘆かわしい行動をとる傾向が見られる。

 2002年になって、グローバル水企業はついに、企業の力では低所得者の居住地域に飲み水を供給することはできないと認めるようになってきた。SAUR社のCEOであるJ.F.タルボー氏は、民営化された途上国の水事業を運営することが、「良好で魅力的なビジネス」であるのかどうか疑問であると述べている(*12)。同氏は、政府による補助金や世界銀行などからの低利融資がなければ、グローバル企業は途上国の水事業から撤退していくだろうと警告している。2002年の終盤、世界銀行が民営化の成功例としてしばしば取り上げてきたマニラとブエノスアイレスからスエズが撤退したことは衝撃的な事件だった。スエズは現在、「撤退に備える」という露骨な方針を採用した。これは、予測された収益が上がらなかったら、その時点で、その水事業から撤退するというものだ(*13)。スエズはまた、先進国の、より安全で収益性の高い市場に投資をシフトしていくと発表している。とはいえ、中国のような特定の途上国の成長市場は、今後もスエズの主要なターゲットである。

変わる風向き
 水業界は世界的な民営化の潮流が今後も続くと予測しているが、風向きが変わり始めたことを示す明らかな兆候がある(*14)。今年初め、スエズは約束した水質改善を実現できなかったため、米アトランタ市との20年間にわたる水供給契約を取り消された。アトランタ市による契約取り消しの決定は、すでに水の民営化が「政治的支持を失いつつある」アメリカにおいて、特にヨーロッパの企業にとって深刻な後退である(*15)。南アフリカやブラジルなど、多くの途上国が民営化について再検討を始めている。ルーラ・ダシルバ新大統領が率いるブラジル政府は、水事業のさらなる民営化に反対する姿勢を明確にしている。ダシルバ政権のオリビオ・デュトラ自治大臣は、「民営化は大多数の人々の水問題を解決してこなかった」と述べている(*16)。


 

(*1) The Center for Public Integrity. Cholera and the Age of the Water Barons. 3 February 2003.
(*2) Masons Water Yearbook 2002-2003. Quoted in #News from the Global Water Industry. Global Water Intelligence, December 2002.
(*3) The Center for Public Integrity. Cholera and the Age of the Water Barons. 3 February 2003.
(*4) ヴィヴェンディグループの水部門に対する投資を行っているVivendi Environnement (VE)は最近、社名の変更とともに大きな変革を行っている。VEはJean-Marie Messier の指揮下で巨大な債務を抱えて倒産した親会社ヴィヴェンディユニバーサルから2002年の7月に分離した。現在、仏財務省はフランスの主要な銀行や国営企業と協力して、VEを外国資本に買収させないよう支援を行っている。
(*5) Defending the Internal Water Empire, The Center for Public Integrityには「フランスの水市場は外国企業を実質的に排除している」との記述がある。 4 February 2003.
(*6) Global Water Intelligence. News from the Global Water Industry. December 2002.
(*7) The Center for Public Integrity. The Aguas Tango: Cashing in On Buenos Aries Privatization. 6 February 2003.
(*8) Ibid.
(*9) Investing in the bureaucracy of privatisation -a critique of the EU water initiative papers, PSIRU, February 2003には以下のような記述がある。「1億6820万ユーロが水資源政策や運営管理に使われているのに対し、具体的な水プロジェクトには6400万ユーロしか使われていない。EUに本拠を置くグローバル水企業が世界市場を支配していることを考慮すると、この政策は新しい形の紐付き援助である」
(*10) Ibid.
(*11) ウェブサイトを参照: http://www.gatswatch.org
(*12) The Center for Public Integrity. Cholera and the Age of the Water Barons. 3 February 2003.
(*13) PSIRU. Investing in the bureaucracy of privatization: A Critique of the EU Water Initiative Papers. February 2003.
(*14) PSIRU. "Water Multinationals in Retreat." January 2003.
(*15) "Southern Discomfort." Forbes Global. 3 February 2003.
(*16) Global Water Intelligence. News from the Global Water Industry. December 2002.
(*17) "Vivendi moves to keep Brazil water company." Financial Times. 18 February 2003.

 

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