JACSES
English Page
 
プログラム
・開発と援助
・税制と財政
・気候変動
・地球サミット
・NGO強化
・フロン
・グローバリゼーション
・環境容量
・水の民営化
 
団体概要
・団体のビジョン
・理事とスタッフ
・会員募集
・インターン募集
・事務所へのアクセス
 
出版物
 
HOME

財務省NGO定期協議に関する外部評価

2001.5.30 大芝亮(一橋大学)

はじめに
財務省・NGO定期協議に関する外部評価を行うにあたり、財務省国際局、定期協議参加NGO、外務省・NGO定期協議参加者、国連機関職員、および国際関係研究者にヒアリングを行った。また、定期協議に一度、参加させていただいた。もとより、私自身は定期協議について部外者・素人であることから、外部評価というよりも、アウトサイダーの感想という形でまとめた。ヒアリングをさせていただいた方々のご氏名を添付すべきであるとは思ったが、匿名希望者もいたので、リストは割愛させていただいた。
本報告書は、1.これまでの成果、2.態度・政策の変化、3.今後の役割と重点領域、4.運営方法の4点に焦点をあてた。

定期協議のインパクトを分析することが外部評価者に求められた課題である。インパクトとひとくちにいっても、同方向の考え方・行動をいっそう促進するというケースと、逆方向の考え方・行動を変化させるというケースがある。後者ばかりが注目を集めやすいが、いうまでもなく双方とも重要である。前者を「これまでの成果」として、そして後者を「態度・政策の変化」として考えた。なお、インパクトの事例をあまり盛り込むことができなかった点は特に反省している。

I. これまでの成果
1.財務省にとっての成果

財務省がこれまでの定期協議から得たものは以下のように整理できる。

  • 信頼関係の構築:財務省国際局スタッフとNGOスタッフとの個人的な信頼関係の確保により、単に定期協議の場のみならず、それ以外の場において財務省スタッフとNGOスタッフの意見交換を行うことが可能となっている。
  • 政策と現場の差の認識:
    • 財務省・世界銀行理事室等のルートからの情報、外務省ルートからの情報に加え、日本のNGOを通じて国際NGOの考え方も知ることができた。
    • 人権や環境問題について、NGOから現場における問題指摘をうけ、観念的ではなく、具体的な問題として従来以上に意識するようになった。
    • 個別プロジェクトの計画・実施において、説明責任を高めることが政治的に、もしくは政策的な意味で、重要であることを改めて認識するようになった(ナルマダ・ダムが例)。
    • NGOからの問題提起・情報提供は、世界銀行等の融資政策に対するチェック機能として有益である場合のあることを認識した。たとえば、2000年春、中国の西部開拓問題について財務省はそれまでの立場を修正した。
  • 財務省行政の対外的透明性の確保:このような定期協議をもつこと自体が、行政の透明性の確保努力のひとつの現れである。

2.NGOにとっての成果

NGOがこれまでの定期協議から得たものは以下のように整理できる。

  • 信頼関係の構築:財務省の場合と同じ。
  • 行政府に対して、定期的に問題提起できる場の確保:NGOの個別プロジェクトに対する監視機能、現場からの視点・情報については、財務省からも概して有益なものとして評価されている。ただし、政策立案でのパートナーとしての役割はこれから強化してほしいとの期待もある。
  • 行政府からの情報入手:定期協議の場において財務省から得られる情報の一部については、NGOがすでにNGO自身のネットワークを通じて得ている場合もあるが、しかし、定期協議を通じて、財務省とNGOが情報を共有することは、今後、政策協議をすすめるうえで促進要因となる。
  • 他省庁とNGOの協議促進という波及効果
  • 財務省行政の対外的透明性の確保:財務省との定期協議が他省庁とNGOの協議を促進するという波及効果がある。MDBs問題での透明性確保という点のみならず、日本の行政一般の透明性拡大に貢献している。

II.態度・政策の変化・定期協議は財務省・NGOのそれぞれにいかなる態度・政策の変化を引き起こしたか
1.財務省の態度・政策の変化について

定期協議は、財務省の態度・政策にはいかなる変化を引き起こしたのだろうか。政策決定過程、財務省の行動、そしてMDBsの行動の3つのレベルに区分して述べる。 政策決定過程レベル・大いに変化があったと評価できる。

【変化した部分】

  • NGOからの問題提起に対して、財務省の職員のなかには、はじめてそのような問題があることに気づいた、もしくはそのような視点のあることを学んだという反応が見られる。
  • 定期協議の審議内容は、財務省国際局から世界銀行等の日本理事へ伝達されている。
  • 財務省にとっても、定期協議準備の人的コストは決して小さいものではなく、決して単なる広報活動にはしたくないという姿勢が見られる。

【特にインパクトのない点】

  • 財務省内の他局では、財務省・NGO定期協議の存在はあまり知られていない。(ただし、他省庁とNGOの定期協議を促進。また、定期協議が長年継続されると、財務省内部での認知も累積的に高まることはいうまでもない。)
  • 日本政府のアウトプット・変化・修正されたケースが見られる。
  • 個別プロジェクトについて、定期協議等での審議を参考にそれまでの態度・政策を修正したケースが存在する。
  • 世界銀行の政策変化−今後の課題
  • 定期協議などを通じて、日本財務省およびNGOが世界銀行の政策変化や組織改革を導きだしているかどうかとなると、今後の課題といえる。

2.NGO活動の変化について

【変化した部分】

  • 期協議をNGOと財務省が対立する場、あるいはNGOから財務省への異議申し立ての場としてのみ見る見方は後退した。

【特にインパクトのない点】

  • 定期協議を継続するなかで、日本のNGOが国際NGOとは違ったアプローチを主張するようになったかどうかとなると、懐疑的な見方が強い。
  • 必ずしも、国際NGOと違った主張がなければならないとは思わないが、財務省からの情報や協議を通じて、日本のNGOが世界のNGOをリードできるように成長していくことが大いに期待される。

【改善策】

  • 財務省には、日本のNGOが世界的なリーダシップを発揮できるような存在に成長していけるような情報提供を期待したい。
  • 具体策として、財務省からも、サミットやMDBs総会などでの争点を議題として提示する。
  • ・タイミングを得た情報公開。MDBs理事会で審議中のものは公開しにくいという財務省側の立場も理解できるし、他方、理事会で結論が採択されるまえに情報を提供してほしいとするNGO側の要望も理解可能である。報告事項として、あるいはサウンディングというかたちで、タイミングを得た情報公開が必要である。

III.今後の役割と重点領域
1.今後の定期協議への期待

これまでの定期協議は基本的には信頼関係の構築と情報交換を主目的とするものであり、第1段階であるとすれば、第2段階において、定期協議はいかなる役割を果たすことが期待されているか。

財務省の期待−財務省の政策立案能力の向上への寄与

  • 財務省が今後の定期協議に期待することは財務省の政策立案能力向上にこの定期協議での審議が役に立つことである。
  • 具体的には個別プロジェクトに関する問題の政策的意味を明瞭にすることが希望されている。これにより、その後の同様の個別プロジェクトに対する日本の政策形成に対する示唆が得られる。いいかえると、これまでは個別問題の政策的意味付けが不十分であったと財務省は認識している。

NGOの期待−財務省を通じてMDBsのプロジェクトもしくは政策の改善を図る

  • 財務省をひとつのチャネルとして、MDBsによるプロジェクトをモニターし、MDBsの政策・組織の改善をめざす。

2.双方の期待の収斂

  • 日本政府の役割について:財務省の自己認識とNGOの財務省への期待が収斂している。すなわち、「MDBsに対して日本政府からいってほしい」「途上国政府へ日本政府からいってほしい」という要望が強いことを双方が認識。
  • NGOの役割について:この点でも、財務省の期待とNGOの自己認識には重なりがある。財務省からは、日本のNGOが、国際NGOからの情報提供のみならず、日本的視点に基づく見解をもっと強く主張してほしいとの希望がある(決して日本政府の代弁という意味でなく)。同様の意見は、日本のNGOのなかにも存在する。

パートナーとして共同で政策立案を

【連携を強化すべき領域】

  • MDBs、特に世界銀行の政策に関しては、財務省と日本のNGOがパートナーとして協力し、共同で政策立案を行うことが期待される。これが可能な問題領域はたとえば以下のとおり。(決してナショナリストになる必要はないが)。
  • ・アングロ・サクソン型の開発戦略への疑問。
  • 人権・環境への取り組み方として、欧米以外のアプローチの模索。
  • MDBsの組織運営方法、組織改革など。

【連携を強化するために】

  • 定期協議の議題世界銀行政策の改善、組織の改革、諸制度の改革案について、財務省とNGOの双方から議題を提示することを検討してもよいのではないか。
  • Q&A審議において、現体制で可能かどうかの回答に加え、いかなる改革が望ましいかについても、率直な意見交換がほしい。
  • たとえば理事会議事録や理事の投票行動データ公表について、現行ルールでは不可能と思う。しかし、現行制度を前提とする回答だけでなく、財務省が現行制度を果たして望ましいとかんがえているかどうかについて、率直な意見交換があってもよいのではないか。

■IV. 運営方法について
1.議題について

議題の多様性・包括性

  • 議題が個別プロジェクトの問題から政策的なものまで多様であることについては、定期協議が包括的であると考えると問題はない。
  • 定期協議での対象をMDBsの融資に絞るか、それとも日本の融資も対象とすべきかについては、時間との関係から、検討してもよいのではないか。

議題の選定方法

【双方から議題提出】

  • これまでは基本的にはNGOが議題を用意し、NGOの質問に財務省が答えるというスタイルが主流であるようにみられる。過去3・4年間の定期協議の第1段階ではこのようなスタイルでもよいが、第2期においては、財務省とNGOの双方から議題を提出し、より積極的に財務省とNGOによる共同(もしくは協同)作業、共同提案をめざしてもよいのではないか。(2001年5月の定期協議はそのようになっているようである)

【財務省からの議題提出方法】

どのような形で議題を提出するかは、基本的には財務省の判断に任せればよいが、たとえば次のような2つの方法が考えられる。

  • 報告事項として--MDBs総会や組織改革、あるいはサミットの進展状況などについての現況報告。 
  • Soundingとして--理事会での関心事項などについて、原案もしくは政府として態度未決定の場合など、広くNGOの意見も参考までに聞いておく。

1年サイクルのなかでの議題選定:1年サイクルのなかで、毎回、いかなる議題を取り上げるかを考えるという方法も検討してもよいのではないか。たとえ、11年に一度は中・長期的課題を議題として取り上げるなどである。

2.審議スタイルについて

  • Q&A型の審議が多いことは改善すべき:事実関係の確認は重要なことであり、また、それ自体に問題はないが、個別プロジェクトなどにおいて、事実関係の確認を行う質問がいささか多いような印象をうけた。
  • 個別ケースの問題から、一般的な政策提言につなげるために、NGO側で議題個々のプロジェクトの政策的意味を明瞭にすることが求められている。
  • 多角的議論が少ない。
  • 特定NGOのみが議論に参加する議題が少なくないことを改善し、多角的な議論を行いとの希望が財務省側にある。これも、Q&A型の審議が多いことと関連している。

3.審議結果の公表の仕方

現在の審議スタイルと公表の仕方

  • 非公式な審議ゆえに、率直な意見交換が可能となっている点は高く評価できる。
  • 非公式な審議ゆえに、率直な意見交換が可能となっている点は高く評価できる。
  • 議事録がJACSESのホームページで公表され、また議事録内容が詳細であることも大いに評価されるべきことである。
  • 問題点は、現在の公表の仕方では一般人(財務省およびNGO関係者以外)の多くは、定期協議の存在も知らず、それゆえ議事録にアクセスすることも少ないと予想される。

公開性を高めるには

  • 財務省・NGO定期協議の存在を広く知られるようにし、かつ審議の成果をより 多くの一般人にも公表してには以下のような方法が考えられる。諸条件を考え、実現可能なところから始めることを検討しても良いのではないだろうか。

具体案として

  • NGOがそれぞれのキャンペーンにおいて定期協議の成果を広く社会に訴える。
  • プレス・リリース発表--1年に一度程度、財務省・NGOの定期協議で審議してきたことをメディアに公表し、一般の人への問題提起を行う。
  • 財務省・NGOがシンポジウム共催--定期協議やMDBs研究会その他の成果をシンポジウムなどで公表し、議論する。マスコミに対してもシンポジウムを通じて定期協議の活動を紹介する。
  • 財務省ホームページでのリンク--財務省側のホームページで定期協議の存在を記し、議事録等についてはJACSESホームページへのリンクを貼る。


4.他の定期協議および他の研究会との関係

他の定期協議との役割分担

  • いかなる議題を財務省・NGO定期協議で扱うかについて、JBIC・NGO定期協議等の他の定期協議との役割分担を検討してもよいのではないか。
  • ただし、財務省・NGO定期協議には、包括性もほしいゆえ、他の定期協議に任せた議題も、報告事項として財務省・NGOの定期協議で簡潔に報告することも考えられる(時間の重複かもしれないが)。

政策論議の場としてMDBs研究会などの活用

  • 定期協議では時間的制約があるために、十分な政策論議・提言を検討する余裕はない場合が多いだろう。MDBs研究会などを、財務省、NGO、研究者の3者構成とし、3者のローテーションで、定期協議とも関連させて、問題提起・報告を行う研究会として活用することを検討してもよいのではないか。

財務省NGO定期協議のトップへ戻る

 

| BACK |

 
home